物語のないMONO-語り

中学生の海外生活の日々を描く

話題になっている美食探偵の最終回についての私の意見

先週の日曜日に最終回が放送された「美食探偵 明智五郎」。

実は去年一時帰国したときに本屋で私が気になっていた小説で、予告がテレビで流れたとき、「あっあの時の!」と思い、絶対に見ようと楽しみにしていました。最初は少し怖いかな?と思ったのですがどんどん話に引き込まれていって毎週の放送が楽しみになっていました。コロナの影響で撮影が難しくなった時の最後のモノローグのシーンの工夫も、更に世界観を深めていてすごかったです。

そんな毎週話題になっていた美食探偵もついに最終話へ。

この後どういう結末になるのだろう。あっと驚くひねりを作りながらも、ありふれた展開になってしまってはいけない、、、難しかっただろうなーと思いながら見ていました。

期待はしていたのですが、エンディングはなんとその高い期待をも上回り、私を圧倒してきました。驚いた。これ以上望めないほどの完璧なエンディングだったのです。物語として楽しめながらも、深く考えさせられる。最高だね、と私と母は終わった後の余韻を楽しみながら感想を言い合いました。

きっとこれは明日話題になっているだろうなーと思っていたのですがその予想は的中。しかし話題のなり方は思っていたのとはかけ離れていました。「美食探偵、最後まで視聴者を圧倒」、「今の時代を生きる我々の心に突き刺さるメッセージ」などポジティブなヘッドラインを予想していたのですが携帯のニュースに出てくるのは「がっかり」「無駄」などのネガティブな意見ばかり。もちろん、数多くあった意見の内のほんの一部だったとは思うのですが、私があんなにも感動したエンディングで、同じ日本人がこんなにも違う意見を持つなんて驚きでした。

「えっなんで?」ただただ疑問で食卓でその話題を口にすると母は驚きながらも、「視聴者はマリアが改心するのを望んでいたのかもしれない」と教えてくれました。なるほど、確かに元は被害者だったマリアが加害者になってしまったどころか気が狂った殺人鬼のまま死んでしまった、そしてシェフまで死んでしまった、というところに一部の視聴者は落胆と疑問を感じたのかも。

でも、私は個人的に両方の死に意味があった、と思います。

愛の力で目を覚ます、というのが理想的だったのかもしれませんが、現実ってそんなにシンプルで簡単じゃない。一度道を踏み間違え、そこから戻ってこれない人もいる。いや、戻ってこれない場合のほうが多いと思います。完全な悪人なんてどこにもいない。何にだって、誰にだって、理由があるし、物事にはそれに関わっている人の数だけ違うストーリーがある。悪と善の境界線、マリアはこの二つの関係がいかに難しいかを美しく表現してくれたんじゃないかなと思います。そんな彼女の死が何を象徴するのか、そんなことを考えてみると計算し抜かれた物語の圧倒的な完成度に驚かされます。

そしてキーパーソンであったシェフの死は確かに心が痛みました。彼は物語の結末にも深く関わっていた重要人物。マリアファミリーに一番に加入したにもかかわらずその中で常に一番「人間味」を感じられる人物、感覚が麻痺していなかった人物だったと思います。今までマリアを何回も手伝ってきた「犯罪者」なのですが最後は苺を助け、マリアをかばい、ヒーローのように死んでいきます。マリアは改心しなかったかもしれませんが、シェフの行動がはっきりと、道を間違えても心次第でいつでも戻れるんだ、ということを示してくれた気がします。個人的に印象的だったのはシェフが倒れたときの林檎と冷蔵庫の反応。マリアはまだ生きていて、警察に狙われているのに、彼女のことは見もせずに「シェフ!」と彼の元へ駆け寄ります。その瞬間二人にかかっていた魔法が解けたような気がして、心に残るシーンでした。

そして心、と言えば響きが似ているここちゃん。最後の彼女のシーンは強烈でしたね。マリアが死ねば終わりなのかと思っていたら、、、この世からそう簡単に悪は消えない。マリアは死んだかもしれませんが彼女の魂は不運なことにも、ここちゃんに受け継がれたようです。これを後味が悪い、すっきりしない、と思った方もいるようですが、私はよくある「to be continued」、「読者/視聴者のご想像にお任せします」系の終わり方とは違い、全ての付箋は回収され、パズルはすべて完成されながらも、終わった後に想像力で「遊べる」ようのパズルピースを一つプレゼントしてくれた、例えるとそんな感じのエンディングだったと思います。

 

結果的に、全ての謎は解決され、終わった後も視聴者を考えさせる。ただの爽快感のあるミステリードラマではなく、哲学的な要素も入っていて見応えのある、最高の作品だったと思います。

さすが美食探偵。高級レストランの食事のように、終わった後も余韻で楽しませてくれました。